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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■共依存について(その5)
共依存概念がアディクションの問題(本人についても家族についても)の解決に役に立ってきたかどうか、さらに考えてみます。

近年SMARPPやTAMARPPという新しいアディクション治療が生まれています。これはアメリカのMATRIXをベースにしたもので、いままで僕らが慣れ親しんできたいくつかの概念を覆しています。

禁酒法が終わり、AAが始まった頃のアディクション治療施設では、家族は「回復の敵」だと見なされていました。なぜなら、施設においてアディクションの仲間と過ごしているときには回復を続けているのに、そこを退所して家に戻すとアルコールや薬が再発してしまうことが多かったからです。これを当時の人たちは、家族が悪いのだと考えました。家族にとってみれば、いわれのない非難であり屈辱ですが、これが後のイネイブリング理論へとつながっていきます。

僕は最近あちこちの施設のスタッフとおつきあいをさせて頂くようになり、多少なりとも現状を知るようになりました。施設入所中は、回復に専念できますし、つきあうのも同じアディクションの仲間だけです。しかし、家に戻ると、アディクションの問題を抱えていない一般の人との付き合いも生じますし、就労もしなければなりません。ところが、それを担うだけのソーシャルスキルやライフスキルが不足している場合が多いのです。すると生活や仕事がうまくいかず、つまずきから酒や薬へと再び走ることになります。

(こう考えると、イネイブリング理論は、施設側や治療者側が自分たちの支援不足を棚に上げて、失敗の原因を家族に押しつけるために編み出されたとも言えます)

そんなわけで、依存症者と家族を分離し、それぞれが別個に回復した後に、時間を経て家族を再統合するという手順が編み出されました。「お母さん、息子さんはうちの施設で預かって回復させます。だからその間、お母さんは○○ノンに通ってご自身の回復をしてください」みたいなセリフが吐かれるわけです。だが実際には家族を再統合するよりも、退所後も施設周辺に留まって生活するという環境調整が行われたほうが、再発防止の効果が高まります。そのほうが継続して支援を得やすいからです。

SMARPPについては講演を聴いたり資料に目を通したぐらいで、それほど詳しいわけではありませんが、これまで書いたような「家族との分離と再統合」戦略ではなく、むしろ断酒・断薬直後から積極的に家族に再発防止に関わってもらう戦略になっています。これは「家族は回復の足を引っ張る存在」という考えが否定されていると捉えて良いのではないでしょうか。

また、何度か書いているので詳しい繰り返しは避けますが、イネイブリングという手助けを止めることにより、本人がアディクションを続けられなくなり、現実に直面する「底つき」が起こり、そこから回復が始まる・・という底つき理論がありました。これも最近の新しい治療法では否定されています。

底つき理論では直面化が最も有効であり、直面することを避けているのは、本人の否認の態度だとされます。だから、イネイブリング行為をやめ、本人が問題に直面せざるを得ない環境を作り出せば、やがてその不快さが否認を上回ることを期待しています。しかし、現実にはそうならないケースが多く、深刻化しても援助を拒否し、さらに悪化していくケースがたくさんあります(むしろそのほうが多数か)。そして最後には一家離散や自殺が起こります。それを従来のやり方では、やむを得ない援助の失敗と捉えていました。

これについては、動機付け面接法(MI)が推奨されています。MIでは直面化や対決を避け、本人が問題に自ら気づくように誘導します。ここ数年MIがもてはやされているのは、過去の対決的な直面技法の有効性に多くの人が疑念を持つようになったからに他なりません。

そうなってくると、共依存概念を支えているイネイブリング、底つき、直面化の有効性も疑わしくなってきます。

01月22日(日)
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