ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■12ステップが優れている点
治癒はないが回復はある。では回復とは?
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=19200&pg=20110728

という雑記で、回復の手段として12ステップがなぜ良いのか、また回を改めて書くことにしていました。

ウィリアム・L・ホワイト先生の「米国アディクション列伝」という本には、アメリカのアディクション治療の歴史を綴られています。その中に、こんな文章があります。

「1915年にエイブラハム・フレクスナー(Abraham Flexner)が専門的分野の本質的要素を定義した。その要素のひとつは「教育的に伝達可能な技術」である」

これはミネソタ・モデルについて書かれた一節にあります。

フロイトやユングの作り出した精神分析という分野は、医師や心理士という資格を持たない素人療法家の登場を可能にしました(精神分析は素人療法家によって広められたとも言えます)。素人が素人を治療し、それによって回復した人が次の人を治療していく、という構図です。自分がその療法で回復した経験が最も大きな財産となるわけです。

それに遅れること数十年、AAは素人が素人の回復の手助けをする「スポンサーシップ」という仕組みを定着させました。スポンサーになるための資格は、その人自身が12ステップによって回復していることです。スポンサーはプロになることはできません。12の伝統の8番目で、AAメンバーはノン・プロフェッショナルであれとして職業化を戒めています。AAスポンサーは専門家(expertやspecialist)にはなっても、それを職業(profession)としてはならないのです。

この方針はAAが始まって20年ほどは堅持されましたが、1950年代に一部のメンバーが12ステップを職業に使い始めます。それはあくまでのAAの外部でということです。

ミネアポリス市の社会福祉局が、生活保護支給が不要になった家庭の事情を調べたところ、父親であるアルコホーリクがAAで酒をやめて働きだしたおかげであったことが分かりました。ならばアルコホーリクを回復させる専門の施設を作れば、もっと税金が節約できると考えられ、そのスタッフとしてAAメンバーが雇われました。これがその後のミネソタ州の各種施設(ヘイゼルデンなど)の源流となり、12ステップを伝えるプロフェッショナル(職業家)としてのアディクション・カウンセラーの誕生となったわけです。ミネソタ・モデルの始まりでした。

12ステップが専門的分野と言えるのは、それがビッグブックというテキストブック(教科書)を使って、教育的に次の人へとメッセージを渡していけるからです。もちろん伝え手(教師役)の巧拙によって、うまく伝わったり伝わらなかったりするでしょうが、その内容はビッグブックというリファレンスによって、時代や場所を問わず一定の品質が保たれています。現在の日本のAAの停滞は、ビッグブックという標準からの大きな逸脱と、スポンサーシップの衰退がもたらしたものでしょう。

さて、回復の手段は12ステップに限ったものではなく、様々な手段があります。どの手段が良い回復をもたらすのか、比較することは難しいことです。なぜなら、個人個人の回復の成果を定量的に比較する手段がないからです。AAは12ステップによる回復は素晴らしいと言いますが、他の手段より優れているとは主張していません。

にもかかわらず、僕が12ステップが優れていると考えているのは、上に書いたように12ステップは教育的に伝達可能だからです。日本ではまだ十分な成果は出ていませんが、本来の力が発揮できれば「ソブラエティの大量生産」が可能なポテンシャルを秘めていることは他国での実績が証明しています。

例えば二郎さんは山に登ることで酒をやめ続けています。山登りによる回復と、他の人の12ステップによる回復の成果を比較しろと言われても無理です。


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09月11日(日)
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