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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■人ごとを案じる
僕はAAのメンバーなのでAAについては割と詳しいのですが、断酒会の会員ではないので断酒会についてはあまり知りません。
AAについては、日本で始まった頃のようなプログラムの濃さが失われ、「ミーティングで集まって話をしていれば仲間のおかげで酒がやめられる」という、12ステップなんか要らない雰囲気の会場が増えてきていることを懸念しています。
AAのプログラム劣化の原因はいろいろ考えられますが、新しいメンバーにプログラムがうまく伝わっていなかったため、古い人が去るにつれてプログラムが失われた、と考えるのが最も自然だと思います。
酒を飲んで酷かった頃の話をしろと言われます。確かにそれは必要です。過去の体験を掘り起こして正直に話ができなければ、今の自分の姿を知ることはできないのですから。しかし、「酒で酷かった頃の話をすればするほど良い」というのは勘違いです。ドランカローグ(drunkalogue)という言葉があります。ローグという接尾語は、プロローグとかモノローグとかのローグと同じで「話」をという意味です。
過去の自分はいかに酒で酷いことになってきたか、というドランカローグを話すとき、人は何らかのカタルシスを得ます。しかしそのカタルシスは回復「ではない」わけです。(つまり本来話せて当然と言うこと)。今まで秘密として背負ってきた心の荷物が降ろせれば楽になります。ミーティングでも、ストーリー形式のステップ4・5でも同じことは起こりえます。でもそれはやっぱり回復ではないのです。同じようなことは、アルコールだけではなく、薬物やギャンブルのグループでも、家族やACのグループでも起きているのでしょう。
回復(変化)をもたらすのは、そこから何をするかです。
なぜ冒頭で断酒会の名前を出したかといえば、それは断酒会でも同じようなプログラムの劣化が起きているのではないか、という懸念を抱いたからです。
先日断酒会のブロック大会にお邪魔しました。用事があり最後までいなかったのですが、何人かの体験発表を聞きました。気になったのは、ドランカローグが断酒会につながったところでお終いになっていたことです。まるで断酒会につながれば問題が解決するかのように。その後の話がされていても、全体からすれば割合はわずかなものです。
大事なことは断酒会につながった後、その人が何をしたかではないのかな、と引っかかりました。
僕は断酒会員ではないものの、たまには断酒会の方の話を聞く機会もあります。それがおつきあいというものです。10年前、15年前に聞いた話は趣が違っていました。
断酒会のプログラムには詳しくありませんが、断酒新生指針によれば、過去の掘り起こしの先にもするべきことは続いてます。「自己洞察を深め」「自分を改革する努力をし」「迷惑をかけた人たちに償い」をします。これらをAAの12ステップに対応させるのは誤解の元ですが、それでも無理にそれをすれば、それぞれステップ4・5、6・7、8・9に対応しています。以前の断酒会の人はそういう話をしてくれたものです。
例えば自分を冷たくあしらった会社の上司に腹を立てていたとします。しかし、上司が冷たかったのは、自分が酒を飲んで仕事に穴を空けたからであったと気づけば、その人の目の前で謝罪し、今後は態度を改めると約束する準備が整います。それを実行するにはとても勇気が必要ですが、実際にそれをやった人は自分の中で確かに大きく何かが変わったことに気づいたはずです。それこそが断酒の喜びではないのでしょうか。
そういう変化がなく、ただ酒が止まっているから良しとする話ばかりになっているのであれば、現状のAAと同じ問題を抱えてしまっているのではないか、とまあそんなことを考えたのです。
ともあれ、僕は断酒会には詳しくないので、例会ではブロック大会での話と違って、その後の話もされているのかも知れません。けれど、断酒会でもAAと同じような現象が起きていて、古い人が去るにつれて魅力が薄れつつある、ということはないのかな?と案じてしまったわけです。
まあ単なる「投影」だという可能性もあるし。
05月10日(火)
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