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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■ふたつの帽子
AAなどの12ステップグループは、たいてい12の伝統というグループを律する仕組みを持っています(一部のグループでは「一致のためのプログラム」という名前になっていることもある)。

その8番目は職業化を禁じています。わかりにくいので「長文のもの」の8番目を引用します。

「アルコホーリクス・アノニマスはあくまでも職業化されずアマチュアでなければならない。ここでいう職業とは、料金を取って、あるいは給与をもらって、アルコホーリクをカウンセリングすることをいう。しかし私たちのサービスのために人を雇う必要のある場合、アルコホーリクを雇うことができる。これに対してはそれ相応の報酬が支払われてよい。しかし私たちが行う通常のAAの「十二番目のステップ活動」は常に無償でなければならない」

つまり、こういうことです。僕が「AAカウンセラー ひいらぎ 12ステップお手伝いします 1時間9,450円」という看板を掲げて商売をしてはいけない、という意味です。

なぜプロになってはいけないのか? それは単純に「うまくいかないから」です。AAのメッセージに値札を付けようとした試みは長続きせず、すべて失敗に終わったとビルは書き残しています。アルコホーリクたちは、金を要求されることが嫌いなのです。そんなわけで、グループの運営やスポンサーシップはすべて無償で提供されることになりました。

しかし、AAで金を稼いでいる人たちもいます。アメリカのAAでは多くのクラブハウスが作られましたが、クラブハウスの鍵の管理や掃除をしてくれる管理人を雇う必要がありました。それにはAAメンバーが雇われることが多く、彼らはさっそく「AAで金を稼いでいる」という非難を受けました。またセントラルオフィスなどが作られると、そこを維持するために専従の職員を雇う必要がありました。AAで金を稼ぐことは一切まかりならない、と考える人もいたのですが、結局は現実的な線が引かれました。

つまり、12番目のステップ(メッセージを運ぶこと)はあくまで無償で提供される。しかし、それ以外のAAの必要を満たすために、物品や役務を提供する人が正当な報酬を得ることはあっても構わない。というわけです。オフィスのスタッフはAAメッセージを運ぶことを職業にはしておらず、メッセージ活動に直接たずさわるメンバーをサポートするのが彼らの業務です。

しかし、アメリカでAAが始まって20年もすると、いよいよAAメンバーを正式スタッフとして雇用したいという病院も登場しました。彼らは施設内で患者に12ステップを伝えることを職業とする専門家になりました。伝統8に照らして考えると、それはどうも良くありません。しかし、それを禁じてしまうと、AAメンバーは回復しても一生、病院や回復施設のスタッフという職業には就けないことになってしまいます。それも良くありません。

そこで(AAのやることはたいていそうなのですが)現実的な方策が考えられました。それが「二つの帽子」という考え方です。

この帽子は野球帽のような cap ではなく、縁のある hat を想像して下さい。帽子は一つかぶれば十分です。頭の上に二つ帽子を載せる人はいません。そんなことをすれば、道ですれ違う人に笑われてしまうでしょう。

さて、片方の帽子には「AAメンバー」と書いてあります。もう一方には「施設職員」(あるいは専門家)とある。どちらか一方の帽子をかぶり、同時に二つの立場は取らないことにするのです。AAメンバーとして活動しているときには、施設職員であることは伏せておきます。施設職員あるいは専門家として活動しているときには、AAメンバーであることを伏せます。常にどちらか片方だけの立場を取るのです。

AAメンバーとしてミーティングで話をするときは、施設の話はしない。職場でのできごとを話したければ、どこでどんな仕事をしているか具体的な話は伏せる。これが、その人の専門家としての立場も、AAメンバーとしての立場も守る方策です。他の人たちは、その人が施設スタッフであることがわかっていても、それについては触れないことで、その人の立場を守る、という了解事項です。


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04月22日(金)
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