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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■抗酒剤
体内に吸収されたアルコールは、肝臓でアルコール→アセトアルデヒド→酢酸へと分解されていきます。アセトアルデヒドは人体には有毒です。住宅建材に使われたアセトアルデヒドが人体に入れば「シックハウス症候群」になります。また酒を飲む人が喉頭ガンや食道ガンになりやすいのは、アルコールが分解される過程で体内のアセトアルデヒド濃度が上がるからだとされています。

アセトアルデヒドを酢酸に分解するのが「アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)」というタンパク質です。日本人を含むアジア人種(モンゴロイド)には、このALDHの働きが鈍い人がいます。これはALDHを構成する517個のアミノ酸のうち一つが別のものに変わっているからで、遺伝による体質です。

アセトアルデヒドの代謝機能が通常の1/16の人がおよそ人口の半分ぐらい(酒が弱い人)、まったく代謝機能のない人が約5%います(完全なる下戸)。ところが、コーカソイド(白人)、ネグロイド(黒人)には、こういうタイプがまったくいません。おそらく人類がアフリカから全世界に広がっていく過程で、モンゴロイドの一部に生じた遺伝的欠損が伝搬したのでしょう。

下戸の人が酒を飲むと、体内にアセトアルデヒドが溜まります。顔が真っ赤になり、心臓がドキドキし、頭痛がし、血圧が降下します。場合によっては救急車を呼ぶ事態になります。

抗酒剤は、ALDHの働きを人為的に抑えることによって、下戸の状態を作り出すものです。酒を飲んでも気持ちよくならず、具合が悪くなるだけなら「酒を飲むことを思いとどまるだろう」と期待されます。つまり抗酒剤は体に効く薬というより、気持ちに効く薬だと言えます。

抗酒剤の一つシアナミド(商品名シアナマイド)は、日本で作られました。石灰窒素という肥料を作る工場で働いていた人たちに「酒が飲めなくなる」という症状が出ることがわかり、調べたところ石灰窒素に含まれるシアナミドにALDHの働きを抑える効果があることがわかったのです。そんなわけでシアナミドがアルコール依存症の治療補助薬として使われるようになりました。

ただし抗酒剤は使い方の難しい薬です。例えば断酒の意欲のない人に処方すると、平気で飲酒してしまい、救急車の世話になることがあります。これは救急医にとっては大変迷惑な話です。自業自得だし、だいたい反抗的で危険なアル中は救急の現場では嫌われ者です。そこで、抗酒剤を処方した精神科医に激しい苦情が行くことになります。精神科医としてもそれは避けたいので、断酒の意欲が薄そうな患者には処方を避けることになります。

それと、経験した人は分かるとおもうのですが、先に酒を飲んで酔っている状態で、後から抗酒剤を飲んでもあまり効果が出ません(つまり酒が飲める)。それがどういう機序なのかはわかりません。おそらく研究する人もいないのでしょう。

「私に抗酒剤は効かないので処方されていない」と言う人もいますが、その人が飲酒実験をしたときには、たいてい抗酒剤の前に酒を飲んでいます。その日は飲んでなくても、前の日に飲んだアルコールがまだ体内に残っている場合もあります。だから、いったんアルコールを完全に解毒して、肝臓もそこそこ機能を取り戻してから、抗酒剤を服用すれば今度はばっちり効いてくれます。しかし、しらふの状態で改めて抗酒剤を勧めても「私に抗酒剤は効かないから」と抵抗に遭います。こういう人に医者が抗酒剤を出さないのは、体質だからではなく、単に断酒の意欲が薄いのを見抜かれているだけです。

ではあるものの、抗酒剤が効きやすい人、効きにくい人というのがあるのは確かです。

抗酒剤が効きにくい人ってのはどんな体質なのでしょうか。ALDHが関与する前に、まずアルコールをアセトアルデヒドに分解する過程があります。これに関わるのがアルコール脱水素酵素(ADH)です。ADHにはいくつか型があり、ADH1B低活性型というタイプではアルコールの分解速度が遅く、酒を飲んだ翌日まで体内にアルコールが残って非常に息が酒臭くなります(こういう人っているよね)。長時間アルコールが残るために依存症になりやすく、アルコール依存症の3割がこのタイプとなっています(一般の日本人では7%程度しかいない)。


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12月02日(木)
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