ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■ドクター・ボブの言葉の真意
ビッグブックの初版が出版されるまで、12ステップは人から人へ(スポンサーからスポンシーへ)と口伝で伝えられていました。しかし、その方法ではAAはじれったいほどの遅いスピードでしか広がらなかったでしょう。その間にも酒をやめられないアルコホーリクは世界の各地で命を落とし続けることになります。
そこで、初期のAAの人たちは本を書き、それを媒介として、12ステップという「酒をやめる方法」を全世界に伝えることにしました。その時AAメンバーはまだ40人しかいませんでした(本を書いている間に100人に増えたのですが)。
AAというのは、この100人が全米、全世界に散って、各地でアルコホーリクを助けてAAグループを作っていった・・わけではありません。AAの評判を聞いて、ビッグブックを買い求めた人たちが、その本の中身通りにステップをやって回復し、各地でグループを始めていった、というのが正解です。つまり初期メンバーの意図通り、本がステップを伝える手段になってくれたのです。もちろん本を読んでも分からないことがあれば、ニューヨークのAAオフィスに問い合わせするほかはなく、そうした手紙にはビル・Wの女性秘書たちが一通一通丁寧な返事を書きました。ついでに言うと、AAの月刊誌「AAグレープバイン」を創刊したのも女性たちでした。AAが広がったのは、本による伝達と女性の力あってのことでした。
ビッグブックがステップを伝える能力を持っていることを再確認させたのは、1970年代から始まったステップの再興運動でした。ジョーとチャーリーのBig Book Studyによってステップのやり方を学んだ人もたくさんいます。
このように「本によってステップを伝える」というのは、AAがその最初期から持っている基本コンセプトの一つなのですが、それに異を唱える人たちもいます。「そこを否定してどうするんだよ」と思うのですが、その人たちによれば、ステップというのはスポンサーからスポンシーへ直に伝えられていく以外ないというのです。もちろんそう考えるのは自由なのですが、彼らが根拠にしているのがビッグブックに載っているドクター・ボブの体験談の<ある部分>だというのです。しかし、その根拠というのが誤解に基づいているものなので、どこかでその誤解を解くための文章を書いて置いた方が良い、と思っていました。この文章はそのためのものです。
飲んだくれの外科医ドクター・ボブは、ニューヨークから来た株式ブローカーであるビル・Wと会って話を聞き、彼と同じやり方をすることで酒をやめました。これがAAの始まりでした。
酒をやめるように他の人からもさんざん説得されても酒をやめなかったドクター・ボブが、なぜビルと会って酒をやめられたのか? その疑問に対して、ドクター・ボブはこう書いています。
読者の脳裏に自然と浮かぶ疑問は、「その彼は他の人と何か違ったことをしたのか、あるいは言ったのか」ということだろう。(p.252)
彼はアルコホリズムの情報を私にくれ、それが役立ったのは疑うべくもない。何より大切なのは、彼は自分自身の体験からアルコホリズムなるものが何なのかを身をもって知っていた、私が話した初めての人間だったことだ。言い換えれば、彼は私の考えを話した。彼はすべての答えを知っていたが、それは本から得た知識ではなかったのだ。(p.253)
ドクター・ボブは医者であり、それまでもアルコホリズム(依存症)に関する本をたくさん読んでいたと書いています。にもかかわらず酒がやめられたのは、本ではなく同じアルコホーリクであるビルと出会ったからである、というのです。
そのことには疑いがありません。しかし、これをもってして「ステップはスポンサーから渡してもらう他はなく、本から得た知識で行うのは無理である」と結論づけるのは早計であり、誤解を招くだけです。
ドクター・ボブは、ビルと出会う前に、「このビール実験のころ、私は、見るからに落ち着いて、健康で、幸せそうに見える人たちのところに顔を出すことになり、大いに興味を持った」と書いています。この見るからに幸せそうな人たちとは、AAの回復の原理の基礎となったオックスフォード・グループの人たちです。
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11月26日(金)
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