ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
[964478hit]
■回復施設の抱える困難
操作的診断基準の影響 の話の続きです。
「ひとつの病名の中に、いろいろな病気の人が混じっているのが今の時代の特徴」であり、それはうつ病にしても、依存症にしても言えることです。
昔から重複障害(Double Disorder=DD)というものはありました。これは依存症の他に別の病気も抱えていることです。例えばアルコール依存症と統合失調症の両方という意味で、通例「別の病気」には身体疾患は入れません。
紛らわしいのは「合併症」です。アルコールを飲むとうつになるのですが、このうつは合併症であって重複障害ではありません。アルコール依存症患者の41%にうつがみられるものの、27%はアルコールの二次障害なのだそうです。
話は逸れるのですが、これはつまり「アル中さんのうつの2/3は酒をやめれば治る」ということです。酒と無関係なうつの人は15%ほど。これは一般のうつの有病率と比較すると確かに多いのですが、残りの85%はうつとは無関係に依存症になっていることを考えると、「うつの人が(極端に)依存症になりやすい」とは言えないと思います。
そして通常のうつの8割は半年以内に治ることを考えると、ちゃんと断酒してうつの治療もすれば、半年後にうつを患っている人は全体の数%程度にまで減るはずです。しかしネットを見ているとうつを抱えたアル中さんが多く感じられるのは、断酒かうつの治療のどちらか(あるいは両方)が順調にいかないからなのでしょう。
さて、話を元に戻します。
知り合いの回復施設のスタッフのグチを聞いていました。その人は「今の仕事は依存症の施設の範囲を超えている」と言うのです。それもむべなるかな。その施設には依存症だけの人は少なく、重複障害を持った人のほうが多いわけです。抱えている「依存症以外の問題」は人それぞれなのでしょうが、それだけにスタッフは個別の対応を迫られています。
神戸で開かれたアルコール関連問題学会のポスターセッションの中に、依存症の回復施設の抱えている様々な問題を取り上げた研究がありました。その中に入所者の重複障害のことも取り上げられていました。
例えば高齢の人の認知症。あるいは統合失調症(圏)の人。これについてはそちらの専門の施設が充実しているので、うまく連携を取っていけば回復施設の負担は減ります。(話は逸れますが認知症のアル中さんの断酒維持率は決して悪くないのだとか。それは認知症の進行に伴って酒を飲むことそのものを忘れてしまうのだそうです。定年アル中の断酒率が高いのもこれと関係があると言っている人もいました)。
他の施設の人とも話をしていたのですが、どうやら回復施設には重複障害を抱えた人が集まりやすい傾向があるようです。例えば統合失調のグループホームでは、アル中の面倒は見きれません。なにぶんそちらの施設は依存症のケアができるところではないのですから。なので、そういう人たちが回復施設に回されて難しいケースが集中している可能性はあります。
そして忘れてはならないのが発達障害です。アスペルガーやADHD、知的障害があると、やはり回復は他の人より時間がかかります。なかでも障害が重くて、なかなか回復しない手のかかる人たちが、自助グループや病院では面倒を見きれなくなって施設に送られている、という図式があるのはほぼ間違いないことだと思っています。これについては大人の発達障害をケアできる施設がないので、回復施設も連携する先がないのが困ったことなのです。
実際に施設の中で行われている支援を聞いても、それは炊事や洗濯、買い物、金銭管理のやり方を教える生活指導であり、人間関係の構築の練習です。それは精神障害、発達障害へのケアを手探りで長年やってきた成果なのでしょう。しかもスタッフは自分たちが何をしているか意識せず、重症?に見える依存症の人たちを回復させようと懸命にやってきた結果です。その大変さにはまさに頭が下がる思いです。
[5]続きを読む
07月28日(水)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る