ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■注意獲得行動再考
子供の虐待死に関する研修会に行った話は書きましたが、また別の日に子供のトラウマのケアをしている専門家の話を聞きました。

虐待を受けた子供のトラウマがテーマでしたが、基本は子供も大人も変わりありません。大人であれば会話が可能ですが、幼児の場合はそういうわけにもいかないので、人形を使ったプレイセラピーになるのですが、使われる技法は大人子供共通です。

しかしここではトラウマケアの技法は脇に置いておいて、別の話をしてしまいます。

障害児あるいは被虐待児の問題行動の一つに「注意獲得行動」があります。(被虐待も広い意味では障害と捉えていいでしょうけど)。

例えば、一対一で相手をしているときには比較的おとなしい子供が、集団に混ぜると大声を出したり、暴れたりします。これは大人の注目を得るための行動です。相手の注目や関心を引くために、わざとトラブルを起こしてみせる(悪いことをする)わけです。

例えば御飯のときにみそ汁をわざとこぼします。すると周りの人がこぼれたみそ汁を拭いてくれたり、服が汚れなかったか、体調が悪くないか心配してくれます。これにより自分が無視されず、ケアされると分かって安心するわけです。

また大人に対して、相手の気分を害するような言動、神経を逆なでする言動を繰り返すこともあります。これも悪いことをして関心を引く「注意獲得行動」の一つです。

これはコミュニケーション能力の貧弱さを示しています。(発達障害の場合には、自己制御能力の不足もあるでしょうけど)。良いことをして注目を引けばいいのに、悪いことでしかそれができません。被虐待児の特徴の一つです。

良いことをすれば親が褒めてくれ、悪いことをすれば叱られる、というのであれば、子供は良いことで注目を獲得しようとします。しかし、良いことをしても悪いことをしても、どちらでも親の気分次第で叱られ、ひっぱたかれるという被虐待の環境では、良いことをすれば褒められると学習できません。そこで、(悪いことをやったほうが結果の確実性が高いですから)悪いことで注意を獲得しようとします。

せっかく子供が学校で賞状をもらったり、良い成績を取ってきても、親がそれを褒めず、逆に「そんなものは社会に出たら役に立たない。世の中は金だ」と言ったらどうでしょう。子供は無力感を感じるだけです。これも虐待と言えるでしょう。

先ほど、子供も大人も基本は変わらないと書きましたが、注意獲得行動は大人でも見られます。大人だから成長してきた過程でそれなりの社会性を身につけているものの、いざ誰かの注意・関心を引こうとしたときに、相手の嫌がる行動や迷惑をかけることでしか、それができない人もいるわけです。そういう人は、子供の頃の被虐待がケアされないままなのでしょう。(最近は小学一年生に注意獲得行動が増えているのだそうです)。

アル中さんにも被虐待児が大きくなった人が多いので、断酒板にはふつーに問題行動が見られます。それが継続的・反復的に相手を非難する分かりやすい注意獲得行動であることもあります。しかし、そこまでハッキリとしておらず、その場に居合わせた人の気分をなんとなく苛立たせる行動ということもあります。その場にふさわしい話題で混ざるより、場違いなことを言って雰囲気をかき回した方が確実に関心が集まるからです。

注意獲得行動は、相手の優しい態度を引き出すばかりが目的ではありません。行動の結果、親から殴られ、先生に叱られ、他の誰かとけんかになったとしても、無視されるよりはずっと「ケアされている」実感を得ることができます。しかし、その相手をする大人にとって見れば、クソ生意気なかわいげのない子供と映ります。(アル中さんたちのかわいげのなさも、ここらへんに原因があるのでしょう)。


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06月29日(火)
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