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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■脱抑制
横浜のアディクションセミナーで「ひいらぎさん、忙しいんですね」と言われて、ああ、自分は忙しいのかと自覚した次第です。忙しさの自覚がないのも困ったもので、「なんてことだ、あれもできてないし、これも間に合ってない。自分はなんて能力不足なんだろう」と、自己肯定が低下しまくりなのです。けれど、能力不足が欠点なのではなく、能力以上に引き受けてしまうのが問題なのですな。
冷徹な判断力で「これ以上できません」と断ることができない。それはつまり「頭が悪い」とか「ステップできてない」ってことなのですが、それは認めたくないので実務能力不足という設定にしてしまうわけです。このように「自分の問題から目をそらす速度には自信がある」わけです。
さて「脱抑制」の話。
うつ病と自殺には関係があるのですが、うつが本当に重いときは自殺も起きません。これはうつで行動力・決断力が削がれているので、自殺という行動を起こすことすらできなくなっているわけです。うつが改善してくると、行動力・決断力も復元してくるので、「自殺ができる」ようになります。
ここで抑制という言葉を「こらえ」という言葉に置き換えてみると、多少分かりやすくなります。つまり脱抑制とは「こらえ」が効かなくなる状態。こらえるのは理性の健康な働きで、そのおかげで死にたくなっても死なずに済んでいるわけです。だから、うつが良くなってきたときに、自殺(企図)、自傷行為などの逸脱行動に気をつける必要があります。
脱抑制をネットで検索してみると、認知症のケアのページが見つかります。認知症でも脱抑制が起こるのは、それが部分的な脳の機能低下と考えれば分かりやすくなります。
・後先を考えずに行動する
・感情をむき出しにする
・場違いな言動
・肯定的な意見以外認めない
・冷静になるのに人の助けが必要
易怒性と並べて書かれていたりとか。
発達障害では、IQが低くなると情動も不安定になるんだそうで、これも抑制機能の低下というわけでしょう。
アルコールも脱抑制をもたらします。脳の高次機能としての抑制機能が酔いによって失われた結果、普段は理性がタガをはめてできなくしていることが、「できるようになってしまう」わけです。普段言いたくても言えなかったことが、言えてしまったりとか。その「酒による解放感」を繰り返し求めてしまうのは、酒が好きなのじゃなくて、酔いが好きなのです。なので、酒をやめただけだと、酔える対象を変えてアディクションが続いてしまいがちというわけ。
うつの薬は全般的に低下した脳の機能を賦活させる働きをするわけですが、決断・実行能力が先に回復して、抑制する能力が遅れると、結果として薬のせいで脱抑制が出現することがあります。(本人にはイライラすると感じられる)。
長年アルコールを使っていると、この脱抑制が脳から取れなくなってしまうようで、アル中は酒をやめた後も脱抑制・易怒性が目立ちます。(断酒板で逸脱行動が目立つのはそのせい)。失われた機能を回復させるには、時間も必要だし、リハビリもいるのでしょう。
脱抑制という言葉から見えてくるのは、「こらえる」能力というのは精神の健康の大事な要素だってことです。それは立つでも座るでもない「中腰で耐える能力」、白でも黒でもない曖昧なものを許容する能力、矛盾したものを引き受ける能力、などとつながっているのでしょう。
05月20日(木)
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