ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■ACという概念について
同様のことはアルコール依存の家族だけでなく、薬物の家族にも当てはまりますが、それにはパラ・アルコホリズムとか、コ・アルコホリズムという言葉は相応しくないので、依存を現す dependency という言葉に置き換えて、co-dependecy と言う言葉に変化しました。これが日本語に翻訳されて「共依存」という言葉になったわけです。

ここまで説明してきたとおり、共依存とアルコール依存に共通するのは、自己中心性です。12ステップはこの自己中心性を減らし、「他者との真の協力関係を築き上げる能力」を身につけていくためのものです。他者との衝突を繰り返し、自分の中に不快感を溜めていけば、やがてその不快を解消しようと酒に手を出すことでしょう。再飲酒を防ぐには、自己中心性を減らしていく必要があるのです。

そして、アルコホーリクの回復に12ステップが役立つのなら、同じ自己中心性を備えた共依存者にも12ステップが役立つはずだ、と考えられます。このように、依存症の家族グループ(○○ノンと呼ばれるもの)は、どうやって依存症本人に酒や薬を止めさせるかを学ぶ場所ではなく、家族自身が回復していく場所と位置づけられます。もちろんそんなことは、1970年代に援助職が発見するまでもなく、1950年代にはアラノンが始まっていたわけですが・・・。

このように見てくると、共依存が本来何を指していたかが分かります。それ以外の意味があるとすれば、それは後からくっついたものです。アルコール依存と共依存は、12ステップがテーマにしている自己中心性というものを共通項にしていますが、だからといって「同じ病気」だと言っているわけでもないし、「依存症の人が酒や薬をやめないのは、家族の共依存が原因だ」と言っているわけでもありません。にも関わらず、「同じ病気」とか「共依存原因論」みたいな単純で分かりやすい話に飛びついた人が多かった時代もあり、今でもその残滓があちこちに見られます。

さて、アルコール依存の問題がある家庭では、子供たちが親からの影響を受けながら育っていきます。その子供たちは、大人になっても子供のころに身につけたパターンを捨てられずにいることがあります。それはつまり「親切で、思慮深く、忍耐強く、寛大で、節度があり、献身的」に相手に尽くせば、相手は自分の願いどおりになってくれる、という思い込みを持っているということです。

これに対して、Adult Children of Alcoholics(ACoA)という名前を付けました。AC(アダルト・チルドレン)です。彼らの特徴は over achiever であることです。achieve とは「成し遂げる」こと。つまり、求められる以上に成し遂げる人です。

彼らの多くは社会的に成功しており、仕事に対して献身的で(つまり仕事依存的で)、家族に対しても献身的です。しかし、自分自身の望みというのはハッキリせず、むしろ他者や状況が自分の願い通りになってくれたときに喜びを感じます。もちろん(どんなに命令的になっても、他者を思い通りに操れないのと同様に)、どんなに献身的になったところで、物事を自分の思い通りに動かすことはできません。ACの生き方はどこかで行き詰まる運命です。

ACの本質は共依存です。共依存⊃ACですから、ACの人は全員共依存のはずで、「私はACだけど共依存ではありません」という人は本来存在しないはずです。

本来的な意味でのAC(つまりover achiever)の人の回復の話を聞けば、どのようにしてそうした自己中心性を減らし、自分自身の望みや他者と協力関係を築く能力を身につけていったか、という話になっています。

親がアルコール依存の人の中に看護職や援助職に就く人が目立つのも、ACとは何かを考えれば頷ける話ではないでしょうか。

さて、共依存の概念が拡大していったように、ACの概念も拡大されていきました。具体的には、「機能不全の家庭」で育った人に対してです。そして、本来のACとは異なった概念へと変貌を遂げていきました。


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03月03日(月)
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