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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■依存症は運転免許の欠格事由
しかし、申告しなければ診断書も必要ありません。申告しなくても罰則はありません。統合失調症や糖尿病や睡眠時無呼吸症候群には、そうした仕組みすら存在せず、てんかんだけに求めているのですから、てんかんを申告しない人が多数存在するのは当然とも言えます。

栃木のクレーン車事故の第一報を見たとき、「これはてんかんだね」と話し合ったのを記憶しています。無申告や治療中断という話と、小学生6人が死亡という悲惨さを考え合わせれば、その後の流れは予想できました。それが、上に掲げた、虚偽深刻の罰則化提言というニュースにつながっています。

他の先進諸国では、病気や障害を理由の差別を禁じる「差別禁止法」が作られ、障害が理由の欠格事項は原則ありません。近年日本でも様々な資格で、絶対的欠格→相対的欠格と変更されたのは、この世界的な流れに沿ったものでした。だが改革にはバックラッシュはつきものです。

てんかんも偏見の多い病気で、偏見ゆえに適切な治療を受けていない人も多くいるとされます。それは精神障害や依存症や発達障害と同じ構図です。無辜の小学生6人も、てんかんという病気に対する偏見の犠牲者だったわけです。

記事では、免許を更新すると危なそうな患者の情報を(個人情報保護法に触れずに)医者が警察に提供できる仕組みも提言されています。「提供できる」ということは「提供しろ」ということで、しなかったら事故の被害者が民事で医者を訴えるという話になるのかもしれません。てんかんの学会では、逆に無発作の基準期間を短くすることで申告しやすくした方が良いと言っていますが。

もちろんアフターでこんな真面目な話をするわけがありません。もっと与太話です。

厳格化は他の病気にも飛び火しかねません。一番燃え移りそうなのが「アルコール、麻薬、大麻、アヘン、または覚せい剤の中毒者」です。なにしろ、これは政令ではなく、法律のほうに残りっぱなしですから。

しかも、道路交通法改正の目的が飲酒運転対策でした。厳罰化をしても、いっこうに飲酒事故が無くならないのは、アルコール依存症が原因だということも分かってきました。とすると、次は「アル中、ヤク中に免許を与えるな、更新させるな」という声が上がりかねません。

もちろん、これは絶対的欠格ではないので、アル中・ヤク中だからと一律に免許を禁じることはできません。だとすれば、てんかんの場合と同じように、「過去2年間断酒が継続しており、今後も最低○年間は断酒継続できる見込み」という証明を誰かにしてもらう話になるのじゃないか。たぶん医者の診断書か何かで。

しかし、アルコール依存症というのは(断酒初期を除けば)医者にかかる必要の無い病気です。他の精神科疾患がなければの話ですが、年単位で酒をやめている人の多くは医者には行っていません。そうなると、免許更新の前にだけ、断酒継続の証明書をもらいに医者にかかることになりはしないか。何年かぶりに診察室に現れた患者に対して、「この人は2年間飲んでない」と医者が判断できるものでしょうか。さらには、今後も断酒が続きそうかどうかなんて、分かろうはずもなし。

さあ、どうしたもんだ。

与太話はともかくとして、ホワイト先生によれば、病気を治療するよりも、懲罰を与えることでトラブルを防ごうとする圧力は常にあるのだそうです。病気の治療(なり障害の支援)は一人ひとりに対して行わねばなりませんから、手間も金もかかります。一方、懲罰は見せしめによる抑止効果が期待できるので、安くつくはずだという発想があります。小さな政府が基本のアメリカばかりではく、日本も不景気で社会保障の予算が削られれば、懲罰志向になりかねません。いや、実際になっているのです。

懲罰志向は、病気や障害に対する偏見を助長し、未治療の人を増やし、結局はトラブルを増やすでしょう。AAの人間として、政治的な意見を述べるのは慎まなくちゃなりませんが、懲罰志向と治療(援助)志向と、どっちが良いかは、言わずもがなです。

10月26日(金)
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