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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■映画「アヒルの子」
「自殺する前に、自分をこんなにした家族をぶっ壊す映画を撮る」・・そうしてできあがった映画が「アヒルの子」です。

彼女は映画スタッフを引き連れ、家族の一人一人と対決していきます。次兄、長兄、姉、そして父と母。これはドキュメンタリー映画です。彼女の親はいずれもアル中ではないものの、現象面から見ればこれはアダルト・チルドレンの回復の物語と言って差し支えないでしょう。

内容については多くを触れません。ただ、彼女の回復はスクリーンの中より外で起こっていると言えます。(その意味では、映画を見るだけでなく彼女の話が聞けた僕は幸運です)。例えば上映後の舞台の話でこんなエピソードが紹介されていました。

映画は一人で撮れるものではありません。カメラも録音も編集も必要です。だからチームで作るのですが、彼女は他のスタッフをまるで信用していませんでした。「この映画が完成しなかったら、死ぬ前にお前ら全員殺してやる」と人を脅すことしか知らない危ない女だったわけです。さて、映画の最初のほうに彼女が次兄に肉体関係を迫るシーンがあります。ここはプライベートな部分なので他のスタッフは部屋に入らないのですが、人を信用しない彼女はカメラを全部自分でセッティングしました。・・・そのせいで、カメラの録音スイッチを入れ忘れてしまいます。一生に一度しか撮れないシーンが音声なし。その結果「人を信用しなければこの映画は完成しない」ということを知るのです。

完成した映画は、「甘えている」「人としてやっていけないことがある」などなど人々の非難に晒されることになりました。しかし一方で「もっと家族を壊して欲しかった」という感想も寄せられたのでした。それは、彼女と同じように家族の中で傷ついた人たちで、彼女の経験が多くの人たちの中で共有されました。結果、彼女はこの映画を公開し、より多くの人たちに見てもらうという目標を持ちます。

公開するには登場する家族の承諾を得なければなりません。内容が内容だけにこれは簡単な話ではありません。実際、完成から公開まで年単位の時間がかかっています。しかし彼女にはすでに目標があり、その目標のためには、自分が信じてきた「正しさ」を捨て、自分が「間違っている」と思っていた相手の気持ちにより添っていくすべを身につけていきます。その過程に回復があったのでしょう。

実は最初この映画を見る積極的な気持ちはまるでありませんでした。「今さらACの映画とか被虐待の映画とか見たってしょうがねえよ」とネガティブなことを言いながらスクリーンの前に連れて行かれたのですが、映画は強い印象を僕の中に残しました。おまけに翌日まるで関係ない場所で彼女にお会いする機会を与えられ、さらには今年の二月に僕の地元で上映会があり、スポンシー一人を伴って見に行き、さらに話を伺うことができました。いまではこの若き才能を応援する気になっています。神さまはまったく意外なことをされるものです。

スクリーンの中の彼女の顔は憎しみに歪んでいます。しかし、上映後の舞台に登場した彼女は輝きに包まれていました。人間には表面的な造形の美醜があるにはあるものの、結局人の好感度というものは内面の表れであるわけです。

全国あちこちで上映が行われているので、アダルト・チルドレンの回復に興味がある方はご覧になって下さい。
最新情報は
ドキュメンタリー映画「アヒルの子」
http://ahiru-no-ko.com/

直近では、6月18日〜24日
「川崎市アートセンター」
http://kac-cinema.jp/theater/detail.php?id=000408

ああ、なんか長い雑記になりました。もう一つアダルト・チルドレンの映画を紹介する雑記を書こうと思います。それは次回。

06月07日(火)
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