ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■10 years ago (14) 〜 手遅れだと言われても、口笛...
タバコにはすごい税金がかかっていて、日本円にすると一箱500円以上でした。おまけに妻の立ち寄る店はどこも灰皿が置いてなくて、炎天下の歩道で人目を気にしながら吸う羽目になりました。汗がだらだら出るのですが、それが例の気持ち悪い汗なのか、単に暑いだけか、もう区別がつきませんでした。
日本に帰りたくないと、強く思いました。
理由は二つあって、ひとつは帰りの飛行機の旅です。またあの狭いエコミークラスの座席に押し込まれ、今度は心身の不調にも耐えなければなりません。来る時にすら、機内サービスのビールとワインでは足りなくて、乗務員に追加を頼んでいるくらいです。すでに禁断症状の始まった帰りの旅では、きっとあてがわれる酒では足りなくなるでしょう。はたして十何時間も耐えられるものかどうか。
もうひとつは、なんとか日本に帰れても、その先ずっと酒をやめていけるかどうか。
ああ、ほんとに日本に帰りたくない。後先考えず、妻を残して、このままシドニーの街の中に一人で消えてしまおうかと何度も思いました。
ふと、シドニーがこれだけ大きな都市なら、きっとAAの会場もたくさんあるに違いないと思いました。思えばAAで酒をやめた時期もあったのに、どうして自分はまたこうなってしまったのか。こんな状態では仕事ができそうにないし、酒をやめるにはまた精神病院に入院するしかなさそうでした。
さすがに新婚早々、精神病院に入院するわけにもいかないでしょう。連続飲酒やら、父の死やら、結婚の準備やらで、仕事もずいぶんと遅れていますから、そちらも休めません。でも、仕事の効率は、これからも果てしなく落ちる一方でしょう。
入院するなら、その前にまず日本に帰り、挨拶回りを済ませ、仕事を片づけて、あきれる周囲を説得して・・・少なくとも3〜4ヶ月は必要と思えました。そのひとつひとつのハードルが、とても高すぎて越えられそうにありません。
八方ふさがりで、どうすればいいのか?
最後の晩、ホテル最上階のバーに行き、さらに部屋のミニバーのボトルを全部空けました。妻との約束では、これが最後の酒になるはずでした。もちろん、そうならないことは、僕が一番よく知っていたのですが。
(そのうち続きます)
03月10日(土)
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