ID:1488
頑張る40代!plus
by しろげしんた
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■恋人坂
以前、『恋人坂』の話を聞いたことがある。
隣の区にある高校に二つの坂があるらしく、その一つが距離は短いけど急勾配の坂で、もう一つが勾配はゆるやかだけど距離の長い坂らしい。
少しでも長く一緒に歩きたいカップルが、距離の長い坂を選ぶので、いつしかそこを『恋人坂』と呼ぶようになったという。
ちなみに急勾配のほうは『地獄坂』と呼ぶらしい。

ま、よくある話である。
ぼくが高校生の時には、そういう話は聞いたことがなかったから、きっと後年つけられた名前だろうが、その話を聞いた時、その高校もえらく開けてきたなあと思ったものだった。
あの頃は、どちらかというとお堅い学校という印象だったのだ。

ところで、こと恋愛に関しては、ぼくの通った高校のほうが有名だった。
何せ他校の学生から、『恋愛高校』と名付けられていたくらいの学校である。
それなのに、なぜかそういう『恋人坂』などという洒落た名前の場所はなかった。
おそらくは、通学路すべてが恋人だらけで、別に場所を特定する必要がなかったのではないだろうか。

そのせいで、よく近隣の住民からクレームが入っていた。
「手を繋いで歩いていた」だとか、「イチャイチャしながら歩いていた」だとかは日常茶飯事だった。
高校2年の頃だったが、学年集会の時に、
「おまえたちの中に、バス停でキスしよった奴がおる」
と、学年主任が興奮して言っていたことがある。
近くの住民から通報があったらしい。
しかし、さすが恋愛高校、そんなことを言っても、誰も反省しない。
みな「そんなこと、どうでもいいやないか」という反応で、似たようなことは次から次に起きていた。

さて、ぼくが高校の時には『恋人坂』のような、粋な場所はなかったわけだが、後年意外なことを知った。
就職先に高校の先輩がいたのだが、その人が、
「図書館の裏側に庭があったやろ。あそこ『秘密の花園』と呼ばれてたんよね」と教えてくれた。
何でも、そこでカップルが寝ころんで愛を語っていたという。
図書館の裏は、少し生温い感じの庭になっていたが、実は艶めかしい場所だったわけか。

しかし、あちらは『恋人坂』で、こちらは『秘密の花園』か。
誇らしいというべきか、恥ずかしいというべきか、複雑な心境である。
05月24日(木)
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