ID:1488
頑張る40代!plus
by しろげしんた
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■異質の女 前編
その女は、いつも店に来ていた。
「ははは、にいちゃん来たよ」
気がつくと、突然横に立っている。
離れない。
ぼくがお客さんをしていても、かまわずにくっついてくる。
「お前、『来るな』ち言うとったやろうが」
「だって、買い物があったんやけ」
「来てもいいけど、おれのそばに寄るな!」
「え、何で?」
「見たらわかるやろ! 仕事中やないか。他のお客さんに迷惑がかかるやろ」
「何も邪魔してないやん」
「十分に邪魔しとるわい!」
「邪魔してないもん」
そうやって、1時間も2時間もぼくの売場にいる。
さすがにぼくが接客している時は、ぼくのそばから離れるようになった。
が、接客が終わると、またそばに寄ってくる。
「お前、もう帰れ!」
「いいやん。せっかく来たんやけ」
いい加減うんざりして、部署の子に「帰ったと言うとって」と言って、ぼくはいつも休憩室に逃げていった。

とにかく、週2度は必ず来ていた。
来たら、いつも先のとおりである。
で、どんな話をするのかと言えば、先のとおりである。
ぼくが売場にいる間、延々こういう押し問答をしていたのだ。

女とは、ぼくが前の店にいた時に、他の部署でアルバイトをしていた女性のことである。
当初、ぼくはその女がいることすら知らなかった。
初めて会ったのは、誰かの送別会の時だった。
たまたまその女が、ぼくの横に座った。
『こういう子、いたかなあ?』と思いながらも、最初は話しかけることをしなかった。
ところが、しばらくして−。
ちょうどぼくが他の人と談笑している時だった。
突然その女が「男なんか信じられん」と言いだした。
「え、何?」
「ほんと、男なんか信じられんのやけ」
「何で信じられんと?」
「男はみんな同じなんやけ」
「ふーん、そうね」
そう言うと、またぼくは先ほどの人と談笑を始めた。

すると、その女は何を思ったか「にいちゃんも同じやん」と言った。
「あ? にいちゃんちおれのこと?」
「他におらんやろうもん」
「何が同じなん?」
「にいちゃんも信じられんのやけ」
よくわからない女である。
「あんた学生?」
「今度卒業」
「短大?」
「いや、四年制」
「ふーん。で、就職はせんと?」
「すぐそんなこと聞くんやけ。だけ、男なんか信じられんのよ」
「『そんなこと』ち、大事なことやないね。就職なかったと?」
「あるわけないやん!」
そう言って、一人で怒っている。

そういうことがあってから、女は休憩時間になると、ぼくの売場に来るようになった。
相変わらず「男は信じられん」と言っている。
「他に何か言うことないんね?」とぼくが言うと、「ほら、すぐそんなん言うやろ。だけ信じられんのよ」と女は言う。
ぼくがそれまでに会ったことのない、異質の女だった。
04月09日(水)
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