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頑張る40代!plus
by しろげしんた
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■出張の思い出 その2
広島に着いたのは、昼前だった。
とにかく初めての土地なので、右も左もわからない。
「八丁堀の次に紙屋町という電停があるから、そこで降りたらいい。そごうがあってその横に広島球場があるからすぐにわかるよ」
上司から言われたとおりに、駅から路面電車に乗った。
しばらくして八丁堀に着いた。
さあ次だ。
上司の言っていたように、そごうのマークが見えてきた。
なるほど、その向こうに広島球場のナイター照明塔が見える。
「ここが紙屋町か。わりと都会やん」と思いながら、ぼくは電車を降りた。

研修先はすぐにわかった。
店に入ると、男性従業員が一人いた。
「いらっしゃいませー」
噂に聞いたとおりだった。
お辞儀の角度が45度になっている。
ぼくもこれをさせられるのかと思うと、気が重くなった。
「あのう…」
「はいっ!」
「北九州から来たんですが」
「ああ、聞いてます。たしか、しんたさんでしたね」
「はい」
「今日からですね。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「主任を呼びますので、ちょっとお待ち下さい」

少し間をおいて、店の奥から主任が出てきた。
「しんた君か」
「はい」
「ここの責任者をやっとるYじゃ。よろしゅう」
「よろしくお願いします」
「あんたんとこから、もう一人研修生が来とるで」
「あ、そうですか」
「ま、あんたも頑張りんさいよ」
初めて聞く、生の広島弁だった。

さて、もう一人の研修生というのは、ぼくが長崎屋でアルバイトをしていた頃の先輩だった。
ぼくは主任に挨拶をしてから、さっそく仕事についた。
ぞうきんを持って商品の掃除をしている時だった。
後ろから「お、しんたやないか」という声がした。
先輩のNさんだった。
「お前、どうしてここにおるんか」
「ここに行けと言われたけおるんよ」
「そうか。ここは厳しいぞ。長崎屋とはまったく違うけの。それだけは覚悟しとったほうがいいぞ」
「そう…。やっぱりね」
先ほどのお辞儀の角度といい、今のNさんの言葉といい、長崎屋にいた時に聞いた噂は、どうも本当らしい。
『こんなところで1ヶ月か…』
そう思うと、長崎屋を辞めるんじゃなかったという後悔の念がわいた。

仕事が終わり、終礼時に主任が言った。
「明日は早朝会議じゃけ、8時に集合」
おいでなすった。
さっそく早出の洗礼である。
ぼくとしては、会議などはどうでもよかったのだが、早出だけは勘弁してほしかった。
長崎屋にいる時は、9時半までに店に入ればよかったので、朝は8時半まで寝ていた。
8時といえば、10日前ならまだ布団の中にいる時間だった。
そんな時間に会議に行かなければならないとは。
まさに地獄である。
03月04日(火)
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