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頑張る40代!plus
by しろげしんた
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■たまに聴いてみたくなる懐かしい声
毎日でもその歌を聴いてみたいというほどでもないのだが、たまに聴いてみたくなる懐かしい声がある。
ぼくの場合、それはボブ・ディランである。
曲がとりわけていいとは思わない。
詩は何を言っているのか、さっぱりわからない。
肝心の彼の歌声はというと、決して洗練されたものではない。
どちらかというと野暮ったい。
しかし、その野暮ったさが味となっている。
時に優しく、時に怒っているように聞こえる彼の歌は、時にぼくの心をいやしてくれる。

ぼくがボブ・ディランを知ったのは中学3年の時で、あのガロの歌った『学生街の喫茶店』を聴いてからだった。
「ボブ・ディランとは何者?」という疑問を抱いたが、ぼくの周りにはボブ・ディランのことを知っている者はいなかった。
ぼくとしても、それほど興味を持ったわけではなかった。
例えば、キダムのCMで「象は出ないの」と言っているのは「辻か?加護か?」くらいの軽い疑問で、別に知らなくてもどうということはなかった。

ところが高校に入ってから事情が変わってくる。
高校1年の時、『たくろうオンステージ第2集』というアルバムを聴いた時、なぜか引っかかるものがあった。
そのアルバムのトップに『準ちゃんが吉田拓郎に与えた偉大なる影響』という歌があるのだが、そのメロディはボブ・ディランの『ハッティ・キャロルの寂しい死』だと拓郎が言っていた。
またその歌の歌詞の中に“その頃ぼくはボブ・ディランを知った”というフレーズが出てくる。
「ボブ・ディラン? そういえば前にも聞いたことがある名前だ。いったいどんな人なんだろう?」
この時初めて、ボブ・ディランという名前に興味を持った。
さっそくぼくはレコード屋に走った。
そのレコード屋にはそれほど多くディランのLPを置いてなかったのだが、それでも拓郎の言っていた『ハッティ・キャロルの寂しい死』の入ったアルバムはあった。

『時代は変わる』というアルバムだった。
ジャケットはモノクロで、一人の疲れたおっさんが写っている。
「もしかして、これがボブ・ディラン? ガロや拓郎はこんなおっさんに夢中になっていたのか」
そう思いつつ、ぼくはそのレコードを買った。
家に帰り、レコードに針を落としてみた。
「何か、この声は!」
これがディランの歌を初めて聴いた時の、ぼくの第一印象である。
アルバム全体を覆うけだるさ。
どちらかというと暗い曲調。
はっきり言って何も感動しなかった。
こんなレコード買わなければよかったとも思った。

次の日、何となくまたそのアルバムを聴いてみた。
その日は2度聴いた。
しかし、やはり何も感動しない。
相変わらず「こんなののどこがいいんだろう」と思っていた。
ところが、レコードを買って3日目の朝のこと。
無性にディランが聴きたくなったのだ。
さっそく、レコードをかけた。
それまで、けだるいとか暗いとか思っていた歌が、やけに新鮮に聞こえる。
耳障りなディランの声も、その日は心地よいものに思えた。
ディランの何かに触れた瞬間だった。

それから30年近く経つ。
あのアルバムのおっさんはやはりディランで、ただ写真写りでああなっただけだというのが判明した。
実際のディランは、もっとかっこいいこともわかった。
ディランに、かなり入れ込んだ時期もある。
そのファッションを真似たこともある。
コンサートを見に行ったこともある。
そして今、ぼくにとってのディランは、「たまに聴いてみたくなる懐かしい声」である。
ということで、今日は「たまに聴いてみたくなった」ので、ディランを聴いた。

最近、高校の頃に触れた「ディランの何か」について考えることがよくある。
あれはいったい何だったのだろう。
相変わらず疑問は解決しないが、一つだけわかったことがある。
それは、あの時ぼくの耳がディランの声に慣れた、ということである。
まあ、それはそうだろう。
もし慣れていなかったら、「たまに聴いてみたくなる懐かしい声」などとは言わないだろうから。
02月19日(水)
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