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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ぼくたちの家族」

平凡な一家の主婦が、突然脳腫瘍で余命一週間と宣告された時、家族はどういう行動を取るか?と言う設定が、突拍子もなくではなく、とても説得力ある描写で綴られます。今まで蓋をしていた事実が、次々明るみに出る様子も、とても他人事とは思えません。ただの難病ものではなく、見終わって観れば、繊細さより骨太さの方が勝る作品です。これもたくさん泣きました。監督は石井裕也。
東京郊外に住む主婦の若菜玲子(原田美枝子)は、小さな会社を経営している夫克明(長塚京三)とふたり暮らし。長男浩介(妻夫木聡)は元引きこもりでしたが、現在はその状況から脱出して会社員となり結婚。妻みゆき(黒川芽以)は妊娠中です。次男の俊平(池松壮亮)は大学生で、既に自宅を出ています。玲子は最近物忘れが激しい上、言動もおかしな事ばかり。病院へ連れていくと、脳腫瘍の疑いが濃く、余命一週間と宣告されます。狼狽する家族。父の会社は多額の借金を背負い、家のローンも残っている。母は家計の苦しさから、カードで借金を重ねている事も発覚。玲子の入院費もままならない現状でした。
原田美枝子初登場シーンが絶品で。呆けたような表情、でこぼこの皮膚感など、いつもの原田美枝子より老けた印象です。そして構図が、とても小さく華奢に玲子を映している。玲子という女性の異変を、カメラは上手く伝えています。そしてこれはカメラさんなのかメイクさんの功績なのか?髪がペタンコで若干薄くなっている。これは中年期以降の女性の特徴です。こんなところから作りこんで行くんだと感心しました。
一般に玲子の症状では、認知症系の病気を疑うはずです。彼女ほどではなくても、最近私も加齢により物忘れが多く、一種ホラーめいて見えて、もうドキドキ。治療費の事、借金の事、お金にまつわる事で一発触発の男三人。狼狽え情緒不安定な父。俺が長男なんだからしっかりしなければと、ガチガチなのがわかる真面目で大人しい長男。へらへら危機感がないようで、冷めた次男など、三人三様です。今まで男性なら有りがちな見栄を張っていた父が、長男に入院費を頼むところなど、どんなに情けない気持ちだったろうと、同情してしまいました。
私の母もガンにかかった時、医療保険にも生命保険にも入っていない事がわかり、私も狼狽した経験があります。当時は私も若く、母は離婚して頼る夫もいないのに、何故いつまでも奥様気分なのかと激怒しましたが、この夫婦もお金のやりくりに困って、保険辞めたのでしょうね。今は怒って悪かったなと思っています。家計が苦しくても保険は辞めちゃダメと、教訓を残してくれましたし。
それと家族の誰かが入院すると、入院費以外に交通費だとかセカンドオピニオンだとか、仕事休まなきゃいけないとか、諸々治療費以外に、かなりのお金がかかる。主婦が入院するので、外食やコンビニばかりになる描写も、節約出来ずお金に直結します。そういう切羽詰まった感が、とてもリアルでした。
腫瘍のせいで、胸にしまっておいた不満や愚痴が口に出る玲子。この場面でまず号泣。彼女の思いは、多かれ少なかれ主婦なら持ち続けているもの。でも私が一番泣いたのは、「それでもお母さん、お父さんが好きだから別れたくないの」の言葉でした。そして幾度となく語られる家族への愛。病んだ彼女はまるで童女のように純真なのです。私はこの言葉の数々が、のちの夫や息子たちの奮闘を促したと思います。
このお父さんね、不甲斐なさばかり強調されていますが、普通に家族を愛してきた人だと思います。だから例え東京郊外で駅から離れていようが、無理して家を買ったんでしょう?これは見栄ではなく、家族を思ってだと思います。妻も本当にハワイに連れて行きたかったんですよ。この不甲斐なさは隠れていたものだったのではなく、老いだと思いました。男盛りの時なら何とかしたはず。莫大な借金を背負って、それでも自己破産しなかったのは、自宅のローンの掛け替え時の保証人に長男がなっているから。息子に自分の借金を背負わせたくなったからです。
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05月30日(金)
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