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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「手紙」
東野圭吾原作の作品。刑事事件の加害者や被害者の心模様は、描かれることも多いですが、この作品は加害者の弟が、世間の偏見や差別とどう折り合いをつけていくか、兄への感情は?という、珍しい、そして重い題材です。ところどころチグハグな演出もあり完成度は高いとは言えませんが、胸を打たれる場面も多い実のある作品だったと思います。今回ネタバレです。
弟・直貴(山田孝之)の大学進学の入学金のため盗みに入り、誤って殺人を犯してしまった剛志(玉山鉄二)。無期懲役が下った剛志には、弟との文通が唯一の慰めでした。しかし直貴の方は「殺人者の弟」として、世間の差別の目に晒され、職も住まいも転々とする生活を余儀なくされていました。
中学の時からの親友寺尾(尾上寛之)とお笑いで世に出ることが夢の直貴を、同じ職場の同僚由美子(沢尻エリカ)は、好意を持って見ていました。
直貴が勤めるリサイクル工場が立派なのでまずびっくり。親に早くに死に別れ、兄も服役中という設定なので、勝手に下町の零細企業の町工場だと決めてかかっていました。私の深層心理の先入観です。この会社には直貴に冷たく当たる先輩の同僚(田中要次)がいるのですが、後で自分もムショ帰りだと直貴に告白します。直貴の兄が服役中だと知った時、「どうせチンケな盗みでもしたんだろう」と吐き捨てるように言ったのは、彼自身のことだったのでしょう。今は務めながら大検を受けようとする同僚に、短いシーンですが、自分の前科を悔いている様子が伺えました。
リサイクル工場を辞め、バーテンのアルバイトをしながら、寺尾とお笑い芸人の道を歩み始める直貴。努力の甲斐あってブレイクしますが、マスコミに顔が売れるようになって、彼の背景がネットに流失し、芸人の道を断念せざるを得ませんでした。原作ではミュージシャンを目指す設定だったようですが、この変更は良かったと思います。事件を知り、お笑いを取る直貴に、不快感を持つ人は多いでしょう。直貴に罪はないとはいえ、彼を見て事件を思い出す人は多いはず。兄の起こした事件だけではなく、世に被害者・被害者の家族は多いはず。その人達も一様に自分の事件を思い起こすのではと思います。良い悪いで片付けられる問題ではなく、人の感情とはそういうものではないでしょうか?
並行して描かれる重役令嬢朝美(吹石一恵)の父(風間杜夫)の言葉は、父親自身理不尽とわかりつつ語る様子が、それが世間の現実なのだとの重みがありました。いわゆる身分違いの恋ですが、真っ直ぐに物を観る清楚で素直な朝美との恋愛の様子は、清々しさと苦悩の様子が上手くコントラストを作って、恋の終焉も上手にまとめられていたと思います。
私がチグハグだと感じたのは、肝心の事件です。少し事件を美化していると感じました。仕事で腰を痛めた兄は当時無職だったかも知れませんが、何故短絡的に犯行に及んだのでしょう?本当に直貴に向学心があれば、昼間働いて二部に進んでも良いし、親のいない状況、保護者代わりの兄の体調なども考慮すれば、金利のつかない・または返済不要の奨学金が受けられる道があるでしょう。私は生活保護を受けていた家庭で、公立大学に進学した人を知っています。アルバイトに明け暮れてはいましたが、ちゃんと大学も卒業しています。県下トップの進学校であれば、担任の教師が相談に乗ったり助言してくれるはずです。昨今色々言われる学校ですが、私が知る限りこれらを拒む教師はまずいないはずです。
それにいくら腰が悪いとは言え、強盗が出来るくらいの足腰なのに、老女が抵抗して挟みを振りかざしたのを、二十代前半の男が、それを取り上げられないのは、腑に落ちません。揉みあって誤って刺したように描かれていますが、騒がれて我を忘れて逆上して殺してしまったと描いた方が自然に思います。兄を演じる玉山鉄二がまたピュアでストイックに上手く演じているので、どうしても彼ら兄弟に同情的になってしまうのが、被害者への目配せが足らないと思いました。
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11月09日(木)
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