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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「冷たい熱帯魚」
愛子も妙子も親ほど年の違う男と結婚しているのは、ファザーコンプレックスのようなものがあったかと想像しました。私は今も健在ですが、父親とは縁が薄く、同じ屋根の下に暮らしていても、関わりはほとんどありませんでした。なので年若い結婚だったこともありますが、夫は8歳年上です。殴られながら「ありがとうございます」「もっとぶって」。どんな強引な方法でもいいから、相手から自分の居場所を作って欲しい妙子。それが更に発展すると、愛子のように自分の命を賭けて、己を守ってくれる相手を探し求めるようになるのじゃないか?一見受け身のようですが、これが彼女たちには相手の愛を確かめる方法なのでしょう。二人の違いは、たまたま選んだ男の違いのように感じます。
家族の軋轢は自分の不甲斐なさのせいなのに、見て見ぬふりの社本。時間が解決するはずだと、嵐が去るのを待つタイプ。実際優しく誠実。妙子もそういう平凡な安定感に魅かれたのでしょう。しかし裏を返せば、大黒柱として舵取りが出来ず、妻や子に不満や鬱積も問えない情けなさです。自分に男としての自信がないのですね。
村田の顧問弁護士(渡辺哲)も村田と同年代、60代前後でしょう。二人とも男としての生々しく毒々しい人生観は、社本のそれの比じゃないです。どうしようもない四面楚歌に追い込まれ、屈服・服従する社本。嬉々として男としての生き方を、威嚇しながら洗脳しようとする村田。もうあれですよ、アニマル浜口の「気合だ!気合だ!気合だ!」に、アントニオ猪木に一発張られて、「ありがとうございました!」の世界。
そこで男に目覚めた社本はどうするか?あの映画この映画で同じような変遷を観てきたはずなのに、私はものすごく爽快でした。あの場面で男の本能が覚醒するというのは、凄く納得出来てしまう。とにかくそれまでの社本の耐え忍ぶ姿がサスペンスフルで、ずっと静々とドキドキしていたのが、これで思いっきり感情が弾けていいのね!となるので、こっちもすごいカタルシスなわけ。
社本も背景は語られませませんが、育った家庭に恵まれていたとは思えませんでした。妻の死後たった三年で後妻を迎え、娘にエロ親父呼ばわりされ嫌われますが、どうしても夫婦揃って子供のいる家庭が欲しかったのだと感じました。娘の気持ちは無視する時点で、親としてはバツ、自己満足です。自分の満たされなかった部分が、もう欠けるのはいやだったのかも。
これが男だ!とばかり、社本に教育的指導をする村田ですが、彼も父から虐待され、それを母は救えなかったと、のちのちわかります。正しい父性に恵まれなかったがため、自分の辛かった過去が影響し、他人を不幸にしても自分が家族を幸せになるのが男の務めだと、歪んだ人生観が作り上げられたのだと感じました。この作品のテーマの一つは、「父性」なんじゃないですかね?
最後に娘に向かい、「人生ってのはな、痛いもんなんだよ!」と絶叫する社本。しかし返ってきた娘の言葉には落胆する私。娘には痛い人生を送らせたくない、命懸けの父親の言葉も娘には届かず。まぁ痛い人生を送って、悟ってもらえればいいか。監督は今の自分の気持ちを正直に映画に託したんだと思います。父性に対して、まだ自分の中で迷いがあるのでしょうね。
吹越満は私は大好きな人で元々芸達者ですので、過激な内容でもすごく安心して観られました。全く文句ありません、花マルの好演でした。各方面から絶賛のでんでんですが、正直私、この人のこと上手いと思った事はないです。この作品でも、長台詞を良くこなしたなというくらいで、終始ずっとがなっていただけです。しかしその心に響かない、下手でも上手くもない演技が、返って怪物的な村田の存在感を底上げしたのですから、これは抜群のキャスティングだったと思いました。
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02月12日(土)
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