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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」
グラントを演じるピンセントは撮影当時76歳ですが、昔大学教授だった知性と、「あなたは女たらしね」と、他の認知症女性に見抜かれる往年の伊達男の面影を忍ばせながら、静かで感情の起伏が少ない演技も、とてもこの作品に合っており、忘れられない名演でした。妻であってもそうではなくても、女性には花を持って訪ねるところが、とても素敵な老紳士ぶりでした。

クリスティーはこの役でゴールデングローブ賞を受賞したとか。60半ばとは信じられない美しさで、自分が自分でなくなっていくフィオーナの哀しみを、毅然と、そしてエレガントに演じて素晴らしいです。この役を引き受けてもらうのに、ポーリーはストーカーの如く、ジュリーに付きまとったとか。夫の感情を前面に出なさければ行けないこの作品では、患者役なのに、受身の演技が必要だったと思うのですが、見事に監督の期待に応えていたと思いました。

「あなたは私を捨てる機会もあったのに、そうしなかったわ。感謝しているの。」「もう私のことは忘れてちょうだい。」フィオーナの言葉は、とてもとても切ない言葉です。長年愛した人の前には、女のプライドなど、いくばくの価値もないのだなぁと思いました。この言葉が、グラントの疑問を払拭してくれたはずです。

カナダの大自然はとても美しかったですが、厳しさを感じる冬をロケーションに選んだのは、主人公たちの年齢を表現していたのでしょう。しかし施設に降り注ぐ陽光は、決して人の心の希望を、もぎ取りはしません。監督のポーリーは、幼い頃から多数の映画に出演していますが、若き名声に押しつぶされる子役出身者が多い中、しっかり自分を見失わなかったのですね。文句のつけようのない、素晴らしい作品でした。

最後に「君を幸せにできるなら、この孤独を受け入れよう」。静かにグラントが決断した時、施設に出発する時、「私、きれい?」と聞いたフィオーナに、「素直で曖昧、優しくて皮肉」とグラントが答えた、そのままの出来事が起こります。それが人生というものなら、素敵なものではないかと、私は思います。

06月13日(金)
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