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うららか雑記帳
by 浜月まお
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■最近読んだ本
畠中恵『しゃばけ』新潮文庫
第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作品。
体の弱い若だんなと、犬神・白沢・家鳴といったあやかしたちが協力して事件を解決する、ミステリーの要素が入った時代物ファンタジー。
※しゃばけ(娑婆気)
俗世間における、名誉や利得などの様々な欲望にとらわれる心
──ウィキペディアより抜粋。
先日ドラマ化されたものを見たら、世界観や時代背景が好みっぽかったので原作を読んでみました。
江戸の魑魅魍魎、付喪神、人間くさくて個性的な妖たち。面白いです。シリーズ作品だそうなので続刊にも手を出してしまいそう。
宮部みゆきさん『あやし』のような江戸物がお好きな方にオススメかな。
文体については、けれん味がなくて読みやすいと思います。
時代物特有の重厚な雰囲気は感じられず、凄惨な事件が起こっているのにも関わらず、障子越しに差し込んでくる日差しのような明るさがあるんですよ。
全体的に、柔らかい人情味のある味付けになっているからでしょうか。時代物初心者にもとっつきやすいです。
浅田次郎のうねるような熱さはないし、村山由佳の色彩感覚に富んだ瑞々しさもない。それでも最初から最後まで一気に読み切らせる力を感じました。
章の始めにちょこっと入る簡単なイラストも嬉しいですね。家鳴まみれになった若だんなが素敵(笑)
ストーリーについては、ややパンチ力に欠けるかもしれませんが、終盤の主人公の決断や言動は見事です。めいっぱい応援したくなりましたよ。
というのも、主要メンバーのキャラ立ちがしっかりしているからでしょうね。
若だんなと兄やたちの日常をもっと追っていきたいな、と思わされるほど愛着がわいてしまうこと請け合いです。
派手さはないけど、よく磨かれた手触りの一作でした。
個人的に好きなのは屏風のぞきと白沢。男前万歳(笑)
あとちょっと思ったのは、冒頭で主人公と一緒に騒動の発端に出くわす鈴彦姫のこと。もう少し活躍の場がほしかったところです。
以下、微ネタバレを含みますのでご注意。
反転≫
ドラマ版と原作では違う部分が目立ちました。
出生の秘密を主人公に語る人とか、主人公がケガをした幼馴染に手をついて詫びる場面、最後に●●がとり憑いた人とかね。それがうまいこと味を出している感じです。
ドラマを見てから原作を読んで、改めてドラマを思い返してみると、全体的に出来栄えがよかったんじゃないかな?
まず江戸の町並みが綺麗。家鳴は可愛らしくてよく動いてたし、兄や二人の本性が夜の江戸を疾駆するシーンは素晴らしかった。キャストも鈴彦姫以外はだいたいイメージに近かったし。特に兄や二人。
原作ドラマ双方ともに理解不能だったのが、主人公・一太郎の父親の振る舞い。
妻との間に授かった子が生まれてすぐに儚くなって、もう妻に子どもが望めないからって、なんでよそに子どもを作ったりしますかね?
分からないです。嘆いて寝床から離れられない妻を慰めるのが辛くて、つい出来心で……その結果が庶子の存在だっていうのならまだ分かるんですが、原作を読むと、どうも故意だったんじゃないかと思われまして。
うーん。ストーリーの要に近い部分でもあるし、ここらへんの事情や当事者間の心境を掘り下げてくれると、もっとずっと臨場感が出てくるのですが。
≪反転
たぶん続刊を見かけたら買ってしまいます。
猫の妖怪、ねこまたの登場も密かに期待してたりします。
年月を経た動物や物が化して付喪神となり、摩訶不思議な力を得て江戸の街で暗躍する……西洋諸国の悪魔や天使や精霊などのイメージよりも、人と人外の存在との距離がぐっと近くて懐かしい。
『しゃばけ』の世界、堪能させてもらいました。
12月03日(月)
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