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うららか雑記帳
by 浜月まお
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■─巡りゆくもの─
抜けるような蒼がどこまでも広がっている。いつの間にか梢の蕾は綻び始め、気紛れな突風に煽られては可憐な裾を翻す。鶯は高らかにさえずり、その鳴き声がどこまでも染みこんでいくような透明な空気が肌に快い。
本当に去ってしまったのだと確信せずにはいられなかった。
留まってほしいと思わないわけではない。
でも、相手の本質をねじ曲げてまでずっと共に在りたいと願うのは……すでに恋情ではなく支配欲だろう。
厳しさも、清浄さも、留まることのできない定めさえも、全てひっくるめて彼を愛したのだから──彼が去った後の胸の痛みすら丸ごと慕わしく、そして誇らしい。
空に浮かぶ綿雲。遠くなだらかな稜線に沿って、緑の気配がゆったりと渡っていく。
自分でも不思議なほど、暖かな想いが身体中に満ちていた。
彼と再び逢える翌年、自分は一体どんなふうに変わっているのだろうか。
あまり変わらないだろうか。どちらでもかまわない、という気がする。
次に彼を前にする時も、たぶんなんの屈託もなく笑って、抱きしめて、見つめて……。
時間は経っても心に隔たりはないと、そう信じている。
「また逢えてよかった」なんて、きっと言うまでもない。
伝えたいのはただ一言。
紡ぐべきはたった一言。
季節が巡り、再びまた逢えたら……心から告げよう。
今はもうここにいないあなたへ。
「おかえり」
逢えない日々を愛おしみながら、いつかそう言える日を待ち望んでいる――
END
01月15日(月)
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