ID:103367
うららか雑記帳
by 浜月まお
[122370hit]
■未だ我が囲いの中の子どもたち
本物の刀に霊力の鎧を纏わせたものと、それ自体に元々霊力が宿っている刀、霊力のみで作り上げた刀を総称して霊刀というのだ。前者2つは真剣が核になっているため安定性に優れ、魔物にも人間にも霊的要素を帯びていない物質にも有効。後者は術士の霊力や集中力に左右されるため安定性に欠けるし、霊的要素を持たない無機物にはかすり傷すら与えられないというデメリットがあるものの、霊力を帯びたあらゆるもの(魔物、人間、霊的要素を含んだ無機物等)に極めて有効。今回悠風が使うのは後者の霊刀である。
「――其は我が同調者・剣にして槍・盾にして鎧」
朝美の朗々たる詠唱が広大な演習室に響き渡る。符陣展開のための呪文。
「此の祈詞を受け・目覚めの刻を迎えたまえ・我が願いに応え・弾丸となりて彼の者へと降り注ぎたまえ」
どうやら彼女が組み立てようとしているのは中級攻性符術らしい。霊符がつぶてとなって相手を襲う術だ。まともに受けるには少々威力がありすぎる。術が完成する前に叩くのが最善策だろう。
悠風は右手に霊力を集め、刀へと収斂させる。
これは簡単に見えても実はかなりの集中力とコントロールが必要で、修練生(国家試験を受験するために勉強中の者)にとっては結構な難関である。
しかし悠風は既に何段階にも及ぶ国家試験に通った準霊術士。(正規霊術士になるには1年以上の研修が必要)――右手には瞬く間に刀が握られていた。
『刈谷選手、さっそく符陣を展開させています。おっと対する瑠神選手、霊刀を生み出しました! 見事な刀です!』
放送部の実況が観衆を煽る。
『刈谷選手を守るようにして浮かんでいる霊符は合計……7枚! 組み立ても実に手早い!』
横に座っている解説役の教師・加瀬涼子もしたり顔で口を挟む。
「全てが発動すれば捌ききるのは少々難しいですね」
そんな外野の声を聞き流しながら、悠風が先手を打って駆け出した。朝美の方は、術が発動するまで時間を稼ぎたい一心で間合いを取ろうとする。
だがその行動はあらかじめ予想していた。悠風はなおも間を詰める。詠唱を急ぐ朝美。
「我・今ここに命ずる・我らが前に立ち塞がりし者・須く打ち破り……」
悠風が大上段に振りかぶった。刀身は更に霊力を注がれて薙刀ほどの太さにまでなっている。
迸る威圧感。そして物理的な破壊力すら伴って振り下ろされる刀。
(――っ!)
とっさの判断でを保留して防性霊術を起動させた朝美だったが、次の瞬間、術の展開すら忘れて思わず硬直する。
『瑠神選手の鮮やかな一撃! 霊符はひとたまりもありません!』
――悠風が斬り裂いたのは、朝美本人ではなく霊符――の符陣だった。
完成まであと少しだった符術の構成は霊符と共に四散し、迫り来る巨大な霊刀を視界に捉えても、朝美にはどうすることもできなかった。
(斬られる……っ!)
身を竦めた彼女は、その恐怖を心に刻んだまま意識が遠のいていくのを自覚した……。
『――クリーンヒット! 刈谷選手は気を失った模様です。瑠神選手の刀は霊力のみで生み出されたものなので外傷はありませんが、霊的衝撃が大きすぎたのでしょうか』
「刈谷選手ダウン! カウントを取ります! 1、2……」
審判が朝美に向かってゆっくりと数を数え始める。どよめくギャラリー。
「霊符を一撃した後、返す刀で防性霊術を突き破って術士への斬撃……すごいな」
「――8、9、10! カウントオーバー! 勝者、A組瑠神!」
審判の判定に覆い被さる大歓声。仕合開始からわずか32秒で、悠風は観衆を魅了していた。
「まずはA組が1勝か」
試合はトーナメント方式で、各クラスの代表3人が1人ずつ戦い、2試合勝った方が次へ駒を進めることができる。
「第2試合、A組アヤ・ルーゲンリーフ対、B組小柳啓太。始め!」
気を失った朝美が医務室に運ばれた後、すぐに2試合目が始められた。
[5]続きを読む
07月02日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る